エムエスツデー 2021年10月号

計装豆知識

BA(ビルディングオートメーション)の空調自動制御
空気線図 その1印刷用PDFはこちら

はじめに

オフィスビルなど人を対象とした空調自動制御システムや、クリーンルームなど工場の空調自動制御システムを構築するためには、まずその対象である空気の性質を知る必要があります。温度や湿度の変化で空気の状態がどのように変化するかが分かれば、快適空間と省エネルギーを両立した空調自動制御システムが構築できます。空気線図は温度、湿度、露点温度、エンタルピーなど、空気の各要素の関係をグラフ化した線図で、空調エンジニアにとっては欠かすことのできないツールです。

空気線図とは

私たちが普段接している空気には水蒸気が含まれています。空気線図は水蒸気を含んだ空気を対象としていますから、正しくは“湿り空気線図”といいます。ここでは略して空気線図と称して説明します。
図1は主にオフィスビルや一般産業用の空調設計に用いられる、乾球温度範囲が-10~50[℃]のNC線図と呼ばれる空気線図です。

図1 空気線図(NC線図)
図1 空気線図(NC線図)

空気線図の読み方

図2は空気線図の主な要素を説明した図です。

図2 空気線図の主な要素
図2 空気線図の主な要素

横軸は乾球温度(以後、温度と称します)を表し、単位は[℃]です。縦軸は絶対湿度を表し、単位は[kg/kg(DA)]です。これは1[kg(DA)]の乾き空気中に含まれる水分量を[kg]で表しています。(DA)はDry Airの略です。右上がりに伸びている線が相対湿度(以後、湿度と称します)です。単位は[%RH]です。RHはRelative Humidityの略です。湿度線の一番左にある飽和線は湿度100[%RH]の線を表し、これ以上の左の範囲では、水蒸気は空気中にとどまることができず、結露水として水滴になります。左下から右上に伸びる直線は、空気の熱エネルギーであるエンタルピーを、比エンタルピーの形で表してます。比エンタルピーは1[kg]の空気中の熱エネルギーの量を[kJ]で表し、単位は[kJ/kg]です。左上は顕熱比(*1)のスケールです。

図3 空調機と露点温度センサ
図3 空調機と露点温度センサ

図3は、ホテルの客室やビルの地下街にある店舗のように、細かく仕切られた空間へ新鮮外気を送る外調機の空調系統図です。各空間は室内天井にある個別エアコンで温度制御をしています。外調機は外気の一次処理と湿度制御をおこないます。例えば夏季は外気の予冷と除湿をおこない、冬季は外気の予熱と加湿をおこないます。このような空調方式で、夏季に室内が個別エアコンで26[℃]に制御されている場合、室内の湿度を50[%RH]にするためには、外調機の給気露点温度を何度にすれば良いかを考えてみましょう。まず図4のように、空気線図上に目標値である26[℃]50[%RH]の点を取ります。ここから左に向かって飽和線にあたるまで横軸に対する平行線を引きます。これは空気を冷却していることを意味しています。その交点から下に線を引いた時の温度目盛りの読み値の14.8[℃dp]が、26[℃]50[%RH]の室内空気の露点温度になります。単位にある[dp]はdew pointの略で露点温度を表しています。ただし、外調機の吹き出し露点温度を14.8[℃dp]にしても、室内湿度は50[%RH]になりません。室内の冷房負荷には、照明やOA機器の発熱のように直接空気を温める負荷(顕熱負荷といいます)と、人の吐息や発汗によって湿度を上昇させる負荷(潜熱負荷といいます)があります。室内を26[℃]50[%RH]にするには、事前に外調機でこの潜熱分を取り除いておく必要があります。そのためにはまず顕熱比を決めます。今回は顕熱比を0.8とします。はじめに顕熱比目盛り0.8と顕熱比グラフの中心を結ぶ線①を引きます。次にこの線と平行になり、かつ室内空気26[℃]50[%RH]の点を通る線②を引きます。その線と飽和線の交点の露点温度13.0[℃dp]が、求める外調機吹き出し出口の露点温度になります。そして、外調機の冷却コイルで取り去られる熱量が、比エンタルピー線上のメモリから、顕熱11.4[kJ/kg]、潜熱4.8[kJ/kg]、全熱16.2[kJ/kg]であることも空気線図から読み取れます。
なおここでは表現していませんが、空気線図では同時に湿球温度や絶対湿度、水蒸気分圧も読み取ることができます。

図4 空気線図の読み方
図4 空気線図の読み方

(*1)顕熱比(SHF:Sensible Heat Factor)
顕熱比空気の熱量には、加熱や冷却で得られるまたは除去される顕熱量と、加湿や除湿で得られるまたは除去される潜熱量があります。顕熱量と潜熱量の合計を全熱量といいます。顕熱比は全熱量における顕熱量の割合を表し、右の式で求めます。
一般的なオフィスビルの場合、冷房時は人の吐息や発汗などによる潜熱負荷を加味して、顕熱比は0.7~0.9の値にします。暖房時は潜熱負荷以上に加湿をしなければならないので、顕熱比は1.0とします。

【(株)エム・システム技研 BA事業部】


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