エムエスツデー 2019年7月号

計装豆知識

リスクアセスメント(2)印刷用PDFはこちら

リスクアセスメントの手順とリスクの低減活動(スリーステップメソッド)について説明します。

前回に引続き、リスクアセスメントの手順(表1参照)と、リスクの低減活動(スリーステップメソッド)について説明します。

③ 危害のリスクの見積り

前回「リスク」とは、「危害の重大さ」と「危害の発生確率」の組合せと説明しました。それを視覚的に分かりやすくするために、図1のようにXYの2軸のグラフで表現し、グラフの上に、危害ごとの見積った結果をプロットしていきます。表1の①と②の作業をする場合は、最終的に、各危害のリスクは、このように分類されることを念頭に置いていく必要があります。

図1 「危害の重大さ」と「危害の発生確率」の組合せ図
表1 リスクアセスメントの手順
使用条件および合理的に予見可能な誤使用の明確化
危険源(ハザード)、危険状態の特定
危害のリスクの見積り
リスクの評価
リスクの低減活動
(⑤は、リスクアセスメントに含まないこともあります)
④ リスクの評価

図2 R-MAP例 ③において、リスクの見積りを視覚的に分かりやすくするために、XYの2軸のグラフで表現することを説明しましたが、XYの2軸に分けただけではそれぞれの軸における大小、高低を感覚的に扱うだけで、その差は具体的ではありません。そこで、目盛に相当する項目を割り当てます(図2)。
たとえば、X軸の「危害の重大さ」に対しては、「なし」「軽症」「通院」「入院」「死亡」と割り当てるかもしれません。また、Y軸の「発生確率」には、「考えられない」「まず起こらない」「起きそうにない」「時々発生する」「しばしば発生する」「頻発する」と割り当てるかもしれません。「発生確率」については、言葉ではなく、たとえば「10-8以下」「10-8~10-7」といった具体的な数値を使用することもあります。
ここまでの説明で、「かもしれません」「使用することもあります」といった表現で説明していますが、これは自社でそれぞれの製品ごとに、定義する必要があるためです。業界標準がある場合はそれを使用することは可能です。しかしあくまで自社でその標準を使用すると決める必要があります。「時々発生する」を「10-7~10-6件/台・年」と定義した場合、10万台生産し、10年間使用する製品の場合は、その製品の寿命において0.1~1件の発生確率になります。仮に死亡につながる危害が、この発生確率で許されるでしょうか? そういったことを検討していくために、グラフ全体を、3つの領域に分類することで、視覚的に、それぞれの危害が、どういった状態かが分かるようになります。このようなグラフのことを、R-MAPと呼びます(図2)。

⑤ リスクの低減活動

図3 エム・システム技研のようなメーカーが、製品開発時に行う製品の安全にかかわる「リスクアセスメント」では、見積った「リスク」を「スリーステップメソッド」という考え方をもとに、許容できるレベルまで低減させていきます(図3)。

スリーステップメソッドの概要

「スリーステップメソッド」の各ステップの概要を表2に示します。
「危害の重大さ」と「危害の発生確率」を組合せて見積ったリスクを、スリーステップメソッドのステップ1の設計段階で「危害の重大さ」を低減させ、ステップ2、ステップ3で「危害の発生確率」を低減させます。この低減活動は、より初期のステップで実施することが望まれます。

表2 スリーステップメソッドの概要
ステップ 製品の安全 職場の安全 概 要
1 本質安全設計 設計や計画の段階における措置 設計の段階で、危害の程度を低減する
2 安全防護、追加の安全対策 工学的対策 ステップ1で低減できないリスクに対し、安全方策を行って、発生確率を低減する
3 使用上の注意情報の作成 管理的対策 ステップ2で低減できないリスクを通知することで、発生確率を低減する

以下、各ステップについて説明します。

ステップ1:本質安全設計

製品の鋭利な端部や角、突起物などが挙げられます。これらを怪我しないように処置することで、怪我をした場合の危害の程度(重大さ)が低減できることは、想像しやすいです。また、製品に毒性物質を使わないなども、このステップ1に含まれます。

ステップ2:安全防護、追加の安全対策

電源回路のヒューズを例に、説明します(表3)。

表3
ヒューズの定格値 ヒューズの状態 結 果
小さい すぐに切れる 故障していないのに、電源が遮断される
適 正 適切に切れる 故障時にのみ、電源を遮断する
大きい なかなか切れない 本当に故障しているときに、電流が流れ続ける

通常、電源回路の設計を行う際、ヒューズが組込まれないことはないと思います。その場合、取付けたヒューズの定格値が、適正値に対して、小さい/大きい場合はどうなるでしょうか?
たとえば、ヒューズの定格を、適正値より小さい値で設定した場合、製品のちょっとした条件の変化でヒューズは切れ、その電源回路を組込んだ製品は動作しないことになります。これは、危害の重大さでは小さい状態ですが、発生確率は高い事象になります。
逆に、ヒューズの定格を適正値より大きい値に設定した場合、先ほどの事例とは異なり、製品の少しの条件変化ではヒューズが切れなくなりますが、本当の故障(たとえば、回路内の短絡故障が起こり、電流が流れている)の場合にも、電流をカットできない可能性があります。この故障単体だけで発煙·発火につながるかどうかは分かりませんが、他の事象と組合さることで、その確率が上がることは確かです。
適正な定格のヒューズを選定することが、危害の発生確率を下げる、あるいは危害の重大さを下げることにつながります。
「安全防護、追加の安全方策」になる設計要素は、開発作業の随所にあります。

ステップ3:使用上の注意情報の作成

これはステップ1と2で低減できていないリスクに関する情報を、ユーザーに提供するものです。特別なトレーニングが必要なのか、たとえば手袋などの防護具を使用する必要があるのかなどの情報を提供します。
あるいは、製品のリスクが低減できていない部分に、警告のラベルを貼るといった対策も、このステップに含まれます。
このように、3段階のステップでリスクの低減を検討しますが、その後、再度リスクアセスメントを実施します。それは、各危害のリスクが、許容できるレベルまで低減できているかを確認するとともに、リスクを低減させる対策を行ったことが、新たなリスクになっている可能性があるためです。

<参考文献>
消費生活用製品向けリスクアセスメントのハンドブック 【第一版】 経済産業省
リスクアセスメント·ハンドブック 【実務編】 経済産業省
JIS T 14971 医療機器 ― リスクマネジメントの医療機器への適用

【(株)エム・システム技研 設計部】


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