エムエスツデー 2016年7月号

計装豆知識

CEマーキングに関するEU指令の改正について印刷用PDFはこちら

CEマーキングに関するEU指令が改正され、2016年4月から適用開始されましたので、今回も計装機器に関係が深いEMC(電磁両立性)指令とLVD(低電圧)指令についてその改正点をご説明します。

EMC指令と低電圧指令は、下記の表1に示すとおり、それぞれの改正版が共に2014年3月29日に発行され、共に2016年4月20日から適用開始されました。
これにより、EU加盟国は、2016年4月19日までにこれらの新指令を国内法に反映させるとともに、2016年4月20日からその適用を開始することが求められています。

表1 EMC指令および低電圧指令の改正版発行日と移行日
指令名 指令番号(改正前) 指令番号(改正後) 改正版発行日 新指令移行日
EMC指令 2004/108/EC 2014/30/EU 2014年3月29日 2016年4月20日
低電圧指令 2006/95/EC 2014/35/EU 2014年3月29日 2016年4月20日

なお、新指令への移行日前日の2016年4月19日までは、従来どおり、新指令に適合するか否かにかかわらず、旧指令に適合する機器のみをEUの市場に出すことができましが、新指令に完全に移行した2016年4月20日以降は、新指令に適合した機器のみをEUの市場に出さなくてはなりません。
今回の改正における最大の目的は、2008年に導入されたNLF(New Legislative Framework)*1への整合です。新指令への変更点のうち我々製造業者に影響があるもので、上記の2指令に共通する点の概要を以下に記します。

新指令への変更点(製造業者に影響があり、両指令に共通する点)

1.NLFとの整合により、各事業者がどのような立場であるか明記されました。
  1. 製造業者かその代理人だけではなく、EU内の各々の流通業者も、この指令に関して責任をもつようになりました。とくに輸入品の場合、輸入業者が大きな責任をもちます。
  2. 製造業者の定義が明確化されました。機器に自己の名称や商標を付けて市場に出す者が、製造業者としての責任を担うものとなります。
  3. 製造業者は、EU内の個人または法人を承認代理人に指定し、各指令に関係する指定された業務を委任することができます。
  4. 輸入業者は、適合宣言書のコピーを保管することや、要求されたときに技術文書を提出できることを保証する責任をもつことも含まれます。
2.製造業者へのトレーサビリティが改善されました。
  1. 製造業者と輸入業者の名称、登録商号または登録商標、及び連絡可能な単一の住所の表示が必要です。機器に表示することが難しい場合は、添付されるドキュメントに書かれていても良いとされています。
  2. 市場監視機関から求められた場合、流通経路内の各事業者は当該機器をどの事業者から供給され、どの事業者に供給したかを示すことが必要です。
3.その他
  1. 消費者やその他の最終使用者が容易に理解できる言語で、取扱説明書やその他の情報を書くことが明確に要求されるようになりました。
  2. 適合宣言書は決められた様式に従って作成し、その機器が流通する国で要求される言語に翻訳する必要があります。
  3. 製造業者は、自らが生産した機器の指令への適合を保持するプロセスをもち、機器の設計や仕様の変更、整合規格などの変更を適切に考慮することが、明確に要求されています。製造業者は、生産プロセスとその監視が、自らが生産した機器に関してその技術文書と指令の安全目標に適合することが明らかになるようにあらゆる手段を行う必要があります。
  4. 市場に出した機器が関係する指令に適合していないと判断した場合、その機器を適合させるために必要な処置、回収、あるいはリコールを直ちに行う必要があります。また、その機器がリスクを与える場合には、その機器が流通している国の関係機関に報告する必要があります。

旧指令にはなかった項目として、各事業者の義務が明確になりました。製造業者が行うべき指令の必須要求への適合は、新指令でも同じです。
指令に書かれた各事業者を図1に示します。
この中で、承認代理人とはEU域内の個人や法人で、製造業者のために指令に関する特定の業務を行うように、書面(委任状)によって委任された者を意味します。

輸入業者の義務

図1 各事業者の義務 図1の中で、とくに責任が強化された輸入業者の義務を例としてとりあげて説明します。なお、これは新指令で定められたもので、旧指令では定められていませんでした。ここで輸入業者とは、EU域外からEU市場に機器を持ち込む、EU域内の個人や法人を指します。
輸入業者は、以下のようなことに責任をもちます。

  1. 市場に出すのは適合した機器だけです。
  2. 市場に機器を出す前に確認することとして、以下のことがあります
    1. 製造業者が適合性評価手続きを行って技術文書を作成したこと。
    2. 機器にCEマークが貼付されていること。
    3. 機器の識別が可能となる情報が表示されていること。
    4. 製造業者の名称、登録商号または登録商標、及び住所が表示されていること。
      機器が必須要求に適合していないと考えられる場合には、当該指令に適合するまで市場には出さない。
      機器がリスクを与える場合には、製造業者と市場監視機関とに報告する。
  3. 機器に、またはそれが不可能な場合には、梱包か添付のドキュメントに、輸入業者の名称、登録商号または登録商標、及び連絡可能な単一の住所を表示する。
    これは、最終使用者と市場監視機関が容易に理解できる言語で記載しなければならない。
  4. 消費者やその他の最終使用者が容易に理解できる言語で書かれた取扱説明書と情報が添付されていること。
  5. 機器が輸入業者の管理下にある間の保管や輸送の条件が、必須要求への適合性を損なわないこと。
  6. 市場に出した機器が指令に適合していないと判断した場合、その機器を指令に適合させるために必要な処置、回収、あるいはリコールを直ちに行うこと。
    その機器がリスクを与える場合には、その機器が流通している国の関係機関に報告すること。
  7. 適合宣言書のコピーを10年間保管し、その間要求された場合には関連する技術文書を提出できること。
  8. 関係機関からの要求があった場合には、指令への適合を示す全ての情報を、当該関係機関が容易に理解できる言語で提出し、当局から要求があった場合、市場に出された機器が与えるリスクの除去のための全ての活動に協力すること。

以上のように、製造業者が行う指令への適合性の試験の実施など、技術的側面に変更はありませんが、各事業者の義務が明確化されて、一層責任の所在を明確化することが求められています。また、輸入業者がその名称または商標で機器を市場に出荷し、要求との適合に影響を受ける可能性がある方法で、すでに市場にある機器を修正する場合、輸入業者ではなく製造業者としての義務を負うことになります。

<参考文献>
*1 New Legislative Framework (NLF) Alignment Package
   (Implementation of the Goods Package)
   — Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
   on the harmonisation of the laws of the Member States relating to electromagnetic
   compatibility (COM (2011) 765 final), European Commission, 2011
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2011:0765:FIN:EN:PDF

   ・Official Journal of the European Union
    http://eur-lex.europa.eu/oj/direct-access.html

   ・The ‘Blue Guide’ on the implementation of EU product rules,
    European Commission, 2014
    http://ec.europa.eu/DocsRoom/documents/4942/

【(株)エム・システム技研 設計部】


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