BA(ビルディングオートメーション)の空調自動制御
インバータ(1)

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(株)エムジー BA事業部

1.インバータの歴史

前回はビルの空調設備の動力源として最も多く使われている、三相交流かご形誘導電動機(以後、誘導電動機と称します)について解説しました。誘導電動機は回転速度が固定子の極数と電源周波数によって決まるため、無段階の回転速度制御が簡単にできないという欠点がありました。
紡績産業や製紙産業の機械では、糸や紙の巻取り時のたるみや切断防止のため、古くから電動機の回転速度制御が行われていましたが、それらには精密な回転速度制御が可能な直流電動機が使われていました。しかし、直流電動機は整流子やブラシの摩耗があるため、定期的なメンテナンスと部品交換が必要でした。
1960年代にサイリスタを使用したインバータが登場し一部のメーカーから商品化されましたが、当時の製品は回転速度可変範囲が狭く応答性もあまりよくないことから、精密な回転速度制御が要求される産業機械には、依然として直流電動機が使われていました。
1980年代になると、パワーエレクトロニクスの発展により、高速なスイッチング制御が可能なパワートランジスタを使ったインバータが開発されました。これにより直流電動機に代わる高度な回転速度制御が、誘導電動機でもできるようになりました。現在では、パワートランジスタがIGBT(*1)に置換えられ、より高耐圧、大電流、低コストを実現し、家電から産業機械までインバータが誘導電動機の駆動電源として汎用的に使われるようになりました。

2.インバータのしくみ

インバータは図1のように交流を直流にするコンバータ(順変換回路)、直流電源のコンデンサ、直流を任意の周波数と電圧に変換するインバータ(逆変換回路)で構成されていますが、一般にはこれらを合わせた装置全体をインバータと称しています。
インバータの入力は日本国内の場合、周波数が50Hzまたは60Hzの交流電源ですが、インバータは印加された交流電源を一度直流電源に変換し、その後、任意の周波数と任意の電圧に調整した交流電力を出力します。直流から交流への変換はPWM変調(*2)と電圧値を同時に可変して行います。出力電力は図1のような電圧を調整したパルス状の出力になりますが、電動機の巻き線コイルのフィルター効果により、その平均値は正弦波交流に近い値になります。 なお、インバータには周波数ジャンプ設定、周波数上下限設定、加減速時間設定などがありますので、採用時にはこれらを現場の装置に合わせた設定値にする必要があります(*3)

図1
図1

3.制御方式

インバータの制御方式には大きく分けて、ベクトル制御とV/f制御があります。ベクトル制御はセンサで回転速度をフィードバックして、トルク電流と回転に要する励磁電流とを分けて制御する方式で、より精密なトルクと回転速度の制御が可能です。最近では回転速度のフィードバックを必要としない、センサレスベクトル制御のインバータも商品化されています(*4)。 V/f制御は回転速度のフィードバックを取らないオープンループの制御で、回転速度は電動機任せになります。 ビルのポンプやファンに使用されているインバータのほとんどが、回転速度をフィードバックしないオープンループのV/f制御ですが、インバータは制御系の中では操作端として働きますので、制御系全体としては制御量を適切にコントロールすることができます。図2の例はポンプの吐出圧力の制御ループです。吐出圧力は、圧力発信器→調節計→インバータ→ポンプという制御ループ全体で適切に制御されます。 次回はインバータの効用について解説します。

図2
図2

(*1)IGBT
Insulated Gate Bipolar Transistorの略で、日本語では絶縁ゲート型バイポーラトランジスタと訳されます。半導体ながら、高耐圧、大電流、低損失、高速スイッチングを実現し、パワーエレクトロニクスのドライバとして各分野に幅広く使われています。
(*2)PWM変調
Pulse Width Modulationの略で、日本語ではパルス幅変調方式と訳されます。直流電源の出力をon/offしてパルス状の波形とし、そのパルス幅を調整することで出力電圧の平均値を望みの値に調整します。インバータではパルス幅の調整とともに、電圧値の調整も同時に行います。
(*3)インバータの設定
・周波数ジャンプ設定

機械装置に組込まれた誘導電動機の回転速度をインバータで可変すると、ある特定の周波数で共振現象が発生し、機械装置全体が大きく振動することがあります。この時の周波数は機械装置によって異なり、共振が発生しない場合もあります。周波数ジャンプ設定は共振時の周波数を飛越えて、機械装置の共振による振動を防止します。共振する周波数は機械装置と誘導電動機の組合せによって変わるので、現場で機械装置ごとに調整する必要があります。
・周波数上下限設定
ポンプやファンの回転速度を下げていくと、ある点で流体の脈動による振動が発生し、機器本体のみならず接続されている配管やダクトまでもが大きく振動し、最悪の場合は装置の破壊に至るおそれがあります。この現象をサージングといいます。インバータで運転中の装置のサージングを避けるため、回転速度の最低周波数を設定します。ビルで使われるポンプやファンなどの下限値は通常40%程度に設定します。 また、ポンプやファンは設計時に安全率を加味して選定されるので、実際の運用にあたってはオーバースペックになる場合があります。このような場合は、インバータの周波数上限定値を運転に支障のない範囲で低く設定することにより、電力消費を抑えることができます。
・加減速時間設定
誘導電動機の始動時に時間をかけてゆっくり回転速度を上げていくことで、機械装置および配管やダクトの衝撃や振動を抑えることができます。ビル内のポンプやファンなどの加速時間は通常30〜40秒に設定されます。なお、停止時の減速時間設定は特別な場合を除き設定しません。
(*4)センサレスベクトル制御
永久磁石式同期電動機による制御方式です。同期電動機は「回転磁界=軸の回転速度」になるので、ホール素子のような回転速度センサを必要としません。誘導電動機は回転磁界と軸の回転速度にずれが生じるので、センサレスベクトル制御はできません。

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