ビルで活躍する誘導電動機

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(株)エム・システム技研 BA事業部

1.かご形三相誘導電動機

ビルの中では、ポンプや送風機、冷凍機、冷却塔、エレベータなど、さまざまな機械が稼働しています(図1)。それらの機械を動かしているのが電動機(モータ)です。交流電力で回転する電動機は大きく分けて、誘導電動機と同期電動機に分けられます。そのうち誘導電動機は、単相誘導電動機、かご形三相誘導電動機、巻線形三相誘導電動機に分けられ、中でもかご形三相誘導電動機は、構造が簡単で堅牢なこと、自己始動が可能なこと(電源を投入すれば勝手に回りはじめる)、比較的安価なこと、ブラシのような電気接触部がないことなどから、ビルの中で稼働している電動機のほとんどが、かご形三相誘導電動機です。
堅牢、安価、自己始動のかご形三相誘導電動機ですが、次のような特徴もあります。

図1
図1

①始動電流が大きい
入力側からかご形三相誘導電動機を見たときに、始動時にインピーダンス(電流の流れにくさを表したもの)が小さく、回転数が上がってくるとインピーダンスが大きくなる、という特性があります。この特性により、かご形三相誘導電動機の始動時に、出力軸の回転数が電源投入時のゼロの状態から、定格回転数になるまでの数秒間に、定格時より大きな電流が流れることになります(この時、定格電流の5〜7倍の電流が流れます)。したがって、かご形三相誘導電動機を動かすための電線やマグネットリレーなどの電気部品の容量は、この数秒間の電流容量に合わせる必要があります。小形の場合はそれほど問題になりませんが、大形のかご形三相誘導電動機では、電気部品のコストがかさみ経済的ではありません。
この問題を解決するため、大形のかご形三相誘導電動機の始動方式は、始動電流が小さくなるスターデルタ始動方式を採用しています(図2)。一般的には、定格出力が7.5[kW]以上のかご形三相誘導電動機の始動回路はスターデルタ方式が採用されています。

図2
電源投入時は固定子(ステータ)をスター結線で運転して、回転数が定格回転数に近くなった時にデルタ結線に切替えます。その後はデルタ結線で運転します。スター結線ではデルタ結線に比べ、トルクは小さくなりますが電流は1/3になります。スター結線をしている時間は、始動してから3~5秒の間だけです。
図2

②回転数制御が難しい
かご形三相誘導電動機の回転数は、電源の周波数と固定子と呼ばれるコイルの極数で決まります。日本国内では、電源の周波数が東日本で50[Hz]、西日本では60[Hz]に決められています。また、固定子の極数は個々のかご形三相誘導電動機により決まってしまうので、回転数を連続的に変化させることができません(ポールチェンジという極数を切替える回転数可変方式がありますが、この場合でもHigh/Lowの2段階程度しか可変できません。また、電動機自体のコストや配線コストも上がります)。


③始動時の機械的な反動が大きい
かご形三相誘導電動機に電源が投入されると、出力軸が停止の状態から急激に定格回転数までに上昇します。かご形三相誘導電動機をポンプや送風機と組合わせた場合、出力軸の回転の急激な変化で次のような不具合が生じます。
(1) ウォーターハンマー
ポンプの羽根車の回転が停止状態から急激に上昇すると、配管内の水が一気に押出され配管の曲がり部分(この曲がり部分は手の肘に似ていることからエルボといわれています)に衝突し配管に大きな衝撃を与えます。この現象をウォーターハンマーといい、流体が安定して流れるまで配管全体に大きな衝撃音と配管の振動を起こし続けます(図3)。

図3
図3
(2) ファンベルトの摩耗
一般的な送風機や排風機は、プーリーとベルトで羽根車が電動機に連結されています。大型の送風機や排風機の羽根車は慣性モーメント(回転体の回りにくさを表したもの)が大きく、急に回ることができません。しかし、かご形三相誘導電動機の出力軸は電源を投入するとすぐに定格の回転数に達するので、羽根車が定格回転数に追いつくまで、かご形三相誘導電動機側のプーリーが空回りをして、その間ベルトが摩耗します(図4)。摩耗が重なるとベルトの損傷が進み、最悪の場合はベルトの破断につながります。

図4
図4

2.初期のVAV方式の風量制御

前回解説したVAVを用いた変風量制御では、各VAVの風量に合わせて空調機の送風機や排風機の風量を調整する必要がありました(図5)。
初期のころは、送風機のケーシング内をスクロールするダンパで送風機の出口面積を変化させたり、サクションベーンを開閉して吸込み側の口径を変化させて風量を調整していました(図6)。
ちなみに、VAVに通信機能がない時代は、図7のように空調機の給気ダクトに静圧センサを取付け、VAV側の風量が変化しても給気ダクト静圧が一定になるよう、静圧調節器がスクロールダンパまたはサクションベーンの開度を調整していました。また給気温度の制御は、VAVと切離された単独の温度調節器で行っていました。
そして、インバータの登場です。インバータは誘導電動機の低速時のトルクブースト機能やストール防止のための低速始動、さらに回転数制御による大幅な省エネルギーを実現しています。
次回はインバータの仕組みとその省エネルギー効果について解説します。

図5
図5
図6
図6
図7
図7

コラム:誘導電動機の回転数

誘導電動機の回転数は下の式で決まります。
誘導電動機の回転数
すべりsは個々の誘導電動機固有の数値であり、通常は0.03~0.05程度の値になります。また負荷の増減によっても若干変化します。
例えば固定子(ステータ)の極数が4極で、すべりが0.04(4%)、電源の周波数が50[Hz]の場合、回転数は1440[minー1](1分間に1440回転)になります。日本国内の場合、西日本の電源周波数は60[Hz]ですので、同じ誘導電動機でも西日本では回転数が1728[minー1]になります。
式からもわかるように極数が多いと回転数は小さくなりますが(回転速度が遅くなる)、その分トルクが大きくなります。


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