AHUの省エネルギーに貢献する全熱交換器と外気冷房制御

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(株)エム・システム技研 BA事業部

前回は省エネルギー効果の高い変風量システムの、AHU (Air Handling Unit)におけるVAV(Variable Air Volume)の役割と、それに連携するAHUの給気温度制御と給排気ファンの風量制御について解説しました。今回はさらにAHUの省エネルギーに貢献する全熱交換器と外気冷房制御について解説します。

1.全熱交換器

全熱交換器は新鮮な外気を取入れる際に、室内から排出される空気(以下「排気」と表記します)のもつ熱エネルギー(顕熱と潜熱)を回収して、外から取入れた空気(以下「外気」と表記します)と熱交換を行い省エネルギーを図る装置です。全熱交換器は外気量と排気量が同じであれば、排出する空気から約70%の熱エネルギーを回収できる熱交換効率の高い装置です。全熱交換器には熱交換エレメントが固定の静止形全熱交換器と、円形の熱交換エレメントが回転する回転形全熱交換器があります。
静止形全熱交換器にはいろいろなタイプがありますが、代表的な静止形全熱交換器は、排気と外気が直交する特殊加工された熱交換エレメントを通過する際に、両者の間で顕熱と潜熱の熱交換が行われます。主に循環形のパッケージエアコンを採用した小規模ビルの換気設備として採用されています(図1)。
回転形全熱交換器は円形をした熱交換エレメントが、AHU内の排気側と外気側の間をゆっくり回転して、排気と外気の顕熱と潜熱の熱交換を行います。主に中規模以上のオフィスビルのAHUに採用されています(図2)。

図1

図1

図2

図2

AHUの冷水コイル(C/C)や温水コイル(H/C)のように顕熱だけを交換する熱交換器は、厳密には顕熱交換器になりますが、一般的にはこれらを熱交換器と呼んでいます。
図3は冷房時に全熱交換器と顕熱交換器の入口空気と出口空気が、空気線図上をどのように変化するかを表しています。全熱交換器は乾球温度と絶対湿度が同時に変化しますが、顕熱交換器は乾球温度のみ変化し絶対湿度は変化しません。このように全熱交換器は熱交換効率の高い装置ですが、排気中に含まれる臭気の一部が外から取入れた新鮮空気に移る場合があるので、厨房がある飲食店や病院などの空調にはあまり採用されません。

図3

図3

2.外気冷房制御

夏季は外気のもつ熱エネルギーが室内空気のもつ熱エネルギーより高くなります。また、冬季は逆に外気のもつ熱エネルギーが室内空気のもつ熱エネルギーより低くなります。夏季や冬季に外気を直接取込むとそれ自体が大きな空調負荷になりますので、このような時は前述した全熱交換器が省エネルギー対策として有効に働きます。しかし、室内が冷房を要求している時に外気のもつ熱エネルギーが室内空気のもつ熱エネルギーより低い場合は、外気を積極的に導入して冷房を行えば、冷凍機などの冷熱源エネルギーの節約になります。また、外の新鮮な空気が入るので、室内の二酸化炭素濃度を下げる効果もあります。
最近のオフィスビルは照明はもとより、パソコンやサーバ、複写機などの排熱で年間を通じて冷房負荷が多く、冬でも日中はAHUが冷房モードになることがあります。このような時に外気冷房が省エネルギー効果を発揮します。ただし、いつでも外気冷房ができるわけではありません。外気冷房ができる条件があります。以下がその条件になります。
・外気エンタルピ < 室内空気エンタルピ(*1)
外気のもつ熱エネルギーが室内空気のもつ熱エネルギーより低いこと。
・外気温度 > 外気温度下限設定値
外気温度が極端に低いと室内湿度が下がり過ぎ加湿負荷が増加する。
・外気露点温度 < 外気露点温度上限設定値
露点温度の高い外気を取入れると結露の原因となる。
具体的には図4のようにAHUを制御するDDC(Direct Digital Controller)が、計測した室内からの還気と外気の温湿度よりそれぞれのエンタルピを演算して外気冷房の可否を判断し、各モータダンパ(MD)を操作します。

図4

図4

外気冷房時に全熱交換器を運転すると、冷房のための冷えた外気が室内からの排気で温められてしまうため、冷房効果が低下してしまいます。そのため図5(a)のように、外気冷房時は全熱交換器側のモータダンパであるMD(4)とMD(5)を全閉にし、かつ全熱交換器を停止して廃熱回収(*2)を行わないようにします。外気による冷房はMD(1)、MD(2)、MD(3)、の開度を調整して行います。なお、換気のための必要最低限の外気を確保するため、MD(1)とMD(2)は全閉にならないよう最小開度を設定しておきます。
逆に外気冷房を行わない通常時は図5(b)のように、MD(1)、MD(2)、MD(3)を全閉にして、MD(4)、MD(5)を全開にし、全熱交換器を運転して廃熱回収を行います。
このように全熱交換器と外気冷房制御は快適空間を維持しつつ、ビル空調の省エネルギーに大きく貢献しています。

図5

図5

(*1)エンタルピ 物体が内部にもつエネルギーの総量を表し単位は[J](ジュール)です。また、単位質量当たりのエネルギーを比エンタルピといい単位は[kJ/kg]です。
(*2)廃熱と排熱 廃熱は廃棄した熱を再利用する場合をいい、排熱とは排出した熱を再利用しない場合と定義されています。

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