VAVを用いた変風量空調システム(1)

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(株)エム・システム技研 BA事業部

1.定風量空調方式と変風量空調方式

空調機(AHU:Air Handling Unit)による空調方式には、大きくわけて定風量空調方式と変風量空調方式があります。劇場やホールのように空調負荷が一様に分布しているような場合は定風量空調方式が採用され、事務所フロアのようにゾーンや時間によって負荷が異なる場合は、変風量空調方式が多く採用されます。
変風量空調方式は定風量空調方式に比べると、1台のAHUでゾーンごとに温度制御ができることやランニングコストが低く抑えられるので、入居するテナントによって間仕切りやレイアウトが変わる事務所ビルに向いています。今回はVAV(Variable Air Volume)を用いた変風量空調システムの制御について、その一例をご紹介します。


2.VAVを用いた変風量空調システム

図1にVAVを用いた変風量空調システムの構成図を示します。各ゾーンのVAVは、室内設定器(RC)の温度設定値または中央監視装置から送られてくる温度設定値と、RCに内蔵された温度センサまたは還気ダクトに取付けられた温度センサで計測した室内温度を比較し、ダンパを操作して風量を可変することで室内温度を制御します。またVAVは要求風量や現在温度、ダンパ開度などの情報をAHUを制御するDDC(Direct Digital Controller)に通信ケーブルを介して送ります。

図1 VAVを用いた変風量空調システムの構成図

図1 VAVを用いた変風量空調システムの構成図

VAV本体は風速センサとダンパモータを組合せた可変風量装置であり、AHUから枝分かれした給気ダクト端末に取付けられています。通常1台のAHUに5台から20台のVAVが取付けられ室内に空気を送風しています。事務所フロアの天井内に取付けられたVAVのイメージを図2に、その構造図を図3に、またVAV本体を制御するVAVコントローラの制御ブロックを図4に示します。
VAV本体を制御しているのがVAVコントローラです。VAVコントローラは設定温度と現在温度を比較しその偏差から必要風量を割出し、吹出し風量がその要求風量になるようダンパモータを操作します(温度による風量のカスケード制御といいます)。VAVは最終的に風量を制御していますので、ほかのVAVの風量調整でダクト内の静圧が変化してもその影響を受けにくいため安定した温度制御ができます。
またVAVコントローラはVAV本体を制御するとともに、AHUのDDCに要求風量や現在温度、ダンパ開度情報、また中央監視装置からの設定値などの諸データを送受信しています。VAVによる風量制御では、空調負荷が軽くなると吹出し風量が少なくなるので、その分外気の取入れ量が減り、そのゾーンのCO2濃度が上昇する場合があります。そのため最近では、そのゾーンのCO2濃度を測定して、CO2濃度が高いときは温度に優先してダンパを開ける方向に動作させるVAV制御もあります。

図2

図2

図3

図3

図4

図4

3.AHUの給気温度制御

DDCはAHUの給気温度を制御します。まずはじめに給気温度設定値の初期値を決めます。これは季節によって中央監視装置からオペレータが手動で設定する場合や、あらかじめ中央監視装置の年間スケジュールに季節による温度設定値を登録して、自動的に給気温度設定値を変える方法などがあります。
DDCは各VAVから送られてくる現在温度やVAVの開度情報を総合的に判断して、VAVからの吹出し温度が空調のための最適な温度になるよう、給気温度設定値の初期値に補正を加えます。例えば、冷房時に全開状態のVAVが多いときは室内が冷房を要求していると判断して、冷房を強化するためにAHUの給気温度設定を下げる方向に補正します。逆に暖房時に全開状態のVAVが多いときは、暖房を強化するようにAHUの給気温度設定を上げる方向に補正します。全体的にはVAVのダンパ開度が50から100%の間にあるときが最適な状態と判断しています。

4.AHUの給排気ファンの風量制御

各VAVは現在の風量設定値を要求風量としてDDCに送ります。DDCはVAVから送られてきた要求風量を合計し、ファンの回転数を割出します。さらに各VAVの開度情報からダクト静圧の過不足を演算して、合計の要求風量に補正を加えて給排気ファンの回転数を決定し、インバータに操作信号を送ります。
VAVのダンパはダクト抵抗になるのでダンパ開度が大きいほどダクト抵抗が小さくなり、その分ファンの回転数を下げることができるため省エネルギーになります。そのため各ゾーンの空調温度が満足している範囲でダンパ開度がなるべく大きくなるよう、ファンの回転数を下げるよう補正をかける制御もあります。

5.ロードリセット

AHUの給気温度設定値と風量設定値は、一定間隔の時間ごとに演算し再設定されます。この動作をロードリセットといいます。ロードリセットの間隔は通常5分から10分程度に設定します。

6.オペレーション

変風量空調システムは省エネルギーを実現しつつ、広いフロアの負荷の異なるゾーンを1台のAHUと複数のVAVで快適な空間に制御する空調システムです。しかし入居するテナントによってゾーンのレイアウトが変わります。書庫のようにほとんど空調負荷がないようなゾーンや、サーバルームのように常に冷房負荷があるようなゾーンになる場合もあります。
このような極端な空調負荷があるゾーンのVAVからのデータは、AHUの給気温度設定値や風量設定値の演算に悪影響を与えかねません。このようなときはそのゾーンのVAVからのデータをAHUの給気温度制御や風量制御の演算対象から外すなどの対策が求められます。また、ロードリセットにより給気温度設定値がハンチングするような場合は、給気温度設定値を固定値にしたほうが制御が安定し省エネルギーにつながる場合もあります。
快適な居住空間と省エネルギーを実現するためには、BEMS(Building and Energy Management System)データを見ながら現場の状況に即したオペレーションが必要です。
次回は変風量空調システムのAHU制御についてご紹介します。


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