エムエスツデー 2019年10月号

設備と計装あれこれ

第12回
省力化の推進(高度経済成長の流れを支えた)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 時代が1980年代ころをピークにして高度経済成長が推し進められ、その流れに合わせるように各業種とも生産設備の増強が図られてきました。世の中は人手不足であり、競争力強化のため極力人員を抑えて設備を操業する省力化や自動化がテーマとしてあげられました。省力化の原点は職場における人の配置を再検討して、いくつかの仕事のプール化を考えます。しかしこれには限界があり、設備の合理化や自動化が寄与することになり、計装的には自動バルブを多用したこと、それに計器の小型化に伴う操作パネル室の統合、そして仕上加工機械の高度化などがありましたが、これら省力化の背景要素のいくつかをお話します。

省力化工事とは

 生産設備は生産量の確保と製品品質の維持が大前提ですが、次のテーマは生産性の向上や省エネルギー、環境保全の推進があります。生産性というのは生産効率のことであって投入費用に対して得られる効果を高めることに尽きます。生産量増強の課題があったとき現状の設備では能力が不足するのであれば新設備を増強することになりますが、たとえば今までの設備を9人で運転していたものが、新設備では5人で可能となりますと、次の課題として現有設備を改善して極力新設備に近づける対策を講じます。省力化工事は収益改善対策の一項目ですが、削減される対象が人件費ですので24時間操業の職場では工事利益率は大きく、かなり大きな工事も計画施工が可能になった面があります。

省力化を押し進めたいくつかの要素(自動機や遠隔操作)

 (1)自動制御弁の活躍
 プロセスオートメーションにおける省力化には自動制御弁とりわけオンオフ弁が多用されています。かつて運転開始と終了時にのみ操作する蒸気や水、原料などの大型配管の元弁は機器が大きいことや工事費も掛かることから、ほとんどが手動操作でしたが、ここでは電動式の遠隔操作が多く採用されています。一方生産ラインでの運転や条件変更などに伴う配管系統の切替え操作にもオンオフ自動弁が多く採用された結果、0~100%の連続信号をもつ調節弁と比べても全閉か全開のみを動作するオンオフ弁は台数上でも同じ程度になってきています。このほかにも往復運動をする摺動装置などにもオンオフ弁は使用されます。
 オンオフ弁の開閉にはエア駆動がかねてより用いられています。これには開閉時間が短い、駆動源のエアは動作後そのまま大気に排出できる、電磁弁は3ポート弁や5ポート弁を使うことで機器が小型化できるなどの特徴があります。5ポート弁というと複雑な構造のように見えますが、玉型弁などリニア駆動するスプリングバックの単作動弁にも、ボール弁やバタフライ弁などの回転弁に見られる複作動弁にも多用されます。図1に基本回路の例を示しました。5ポート弁は3ポート弁2台分の役割を1台で果たしています。
図1 オンオフ弁エア系統基本回路
 (2)中央操作による遠隔監視(現場用無線機の活用)
 中央操作室が形成され機器、計器類を遠隔で操作することに移行した背景がいくつかあります。電動機類はもともと現場で設備を見ながら機側で運転操作をするというのが前提でしたが、現場で監視する作業員のヘルメットに小型無線器が取付けられたことで中央と現場の情報伝達が容易になり、それで電動機の運転指令を現場から要請し中央で運転操作するようになりました。次にかつて大型だった計装監視計器が小型化したことで電気・計装融合の操作パネルが考案され、その結果長大なプラントの始めから終わりに到るまで各所に分かれていた電動機の運転停止、計器の操作、制御ならびに警報監視などは一箇所に集められ、中央操作室が確立されました。この後にDCSによるボードレス化が続くのですが、これらによる省力化の効果は大きなものがありました。

 (3)仕上・加工機械の高度化
 素材を生産するプロセスオートメーションでは前半の工程が連続プロセスで計装制御や監視が中心であり、後半は加工(非連続)プロセスであることが普通で製品加工の生産効率が直接的に重視されるところです。連続設備に比べると加工プロセスには仕上加工や搬送設備、自動倉庫など多くの独立した装置類があり、たとえば個々の製品情報が印字されたラベルを製品に貼付する装置はこれが全自動で行えるか否かで一人分の作業量の増減に相当します。図2に例を記載しましたが、最近の仕上加工機械などには検査装置を含めその省力化、自動化技術には目を見張るものがあります。
 かつて抄紙機のワインダー(小巻設備)は5人程度で行っていましたが、人力で行われたところが自動化されて1人でできるようになり、作業は監視中心業務へと変化しました。連続プロセスではこのように劇的に省力化されることはまずありません。
図2 製紙工程で見る省力化設備の例

【コラム】設備改善と省力化

 省力化投資が真に労働力削減に寄与しているかは常に検討時の課題となります。連続プロセスでは品質の安定化が省力化に寄与します。たとえば抄紙機では生産中に紙切れが起きると設備の洗浄や清掃で1時間近くは生産ロスが発生します。ここでは原料となるパルプの均一化、駆動装置のデジタル制御などが品質安定に大きく寄与しました。一方仕上加工機械では人為作業のロボット化による省力化が多く見られ、時代が進む毎に更に自動化された設備が採用されるようになりました。それに対象となる領域が拡大し、従来試験室でしか行えなかった品質測定検査が自動で行えるものが出現しています。最近では自動車の組立て工程が全自動で流れるように機械が行えるところは機械に任せ、高度な判断や総合力が必要なところが人に委ねられるように分業する方向になりつつあります。


ページトップへ戻る