エムエスツデー 2015年7月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 つい先日の5月9日に、NHKスペシャル「総理秘書官が見た沖縄返還」と題するドキュメンタリー番組の放映がありました。沖縄問題の行方が気になっていたこともあり、目を凝らして視聴しました。印象に残ったのは、佐藤総理がアメリカとの交渉に奮闘する姿でした。その結果ついに沖縄の日本復帰が実現し、それを花道に佐藤総理が引退されたと伝えていました。

 沖縄の日本復帰は1972年の出来事でしたが、エム・システム技研は、奇しくもその年にベンチャー企業としてスタートしたわけです。それから43年が経過して、エム・システム技研は今や社員280人、年商86億円の企業に成長している姿を目の当りにして、私は一種のおとぎ話が進行しているように思います。
 創業時にはもちろん、エム・システム技研の社員は実質上私一人だったわけで、我ながらよく思い切ってベンチャービジネスを始めたものだと思います。なお、その年の前年に、私の父が私の歳の約2倍の73歳で突然他界し、私自身の人生が後半に差しかかっていることを強く認識させられ、「今起業しないと一生悔いを残すことになる」と思ったことが思い出されます。
 その頃は日本経済の高度成長が著しく、物流に便利な日本の海岸沿いの地域にはコンビナートと称する工業団地が続々と開発され、そこには世界最大級の製鉄所や化学プラント等が建設されてゆきました。
 工業計器業界は、大形プラントの計装システムの受注に沸いていて、電子式工業計器の新製品が大手の各社から次々と発売され、市場は活況を呈していました。

 工業計器といえば、まずプラントの各部に取付けられた多くのセンサとコントロールバルブがあり、その検出信号を電流信号に変換する変換器類があって、その出力信号を受信する記録計、指示計、警報設定器、そしてPIDコントローラがあり、それらの全計測信号は上位のコンピュータで管理する形になっていました。その後制御技術が革新を遂げて、PIDコントローラの演算機能が急速に上位コンピュータへ吸収されてゆき、それがDCS(Distributed Control System)の形に発展して今日に至っています。

工業プラント

 私は1958年に北辰電機に入社し、工業計器部門で14年間学ばせていただいたわけですが、この期間はちょうど工業計器の黎明期に当たり、大形プラントは海外からのライセンスを受けて建設されるケースが多かったように思います。大手の工業計器メーカーは自社の得意業を提案して、そのプラントのシステム一括受注にしのぎを削っていました。

 大形プロジェクトをシステム受注した工業計器メーカーには、その後に膨大な作業が待ち受けています。
 システム打合せに始まって、トータルシステムの提案と具体的に想定される各種の問題を処理するための度重なる打合せが行われます。特殊仕様機器の仕様すり合わせ、特別設計品の工場立会検査、制御盤の設計、そしてその承認プロセスを経て、制御盤の製作、組立、機器組付け配線、ループテスト、盤単位の工場立会検査、現場搬入、設置工事、現場機器との接続工事、トータルのループテスト、模擬入力を入れての現場における機能テスト、そしてようやく試運転、現場立会検査が行われ、それらの全てに合格した後、ようやく膨大な完成図の作成、提出で一応工事完了、引き渡しということになります。

 しかしながら、それらの膨大な作業は超零細企業であるエム・システム技研の手に負えるものではありません。そこで私はエム・システム技研の創業に当たって、計装システムに不可欠な「信号変換器」だけを切り取って、それを単体供給する「変換器の専業メーカー」を目指すことにしました。
 計装機器とはどんなものかを一通り知っているつもりでしたので、計装システムにおいて必要となる多くの変換機能をプラグイン式のケースに納めて、多品種、少量生産、短納期で販売する企画を立てました。mV変換器に始まってアイソレータ、ポテンショメータ変換器、ディストリビュータ、各種のフィルタ変換器、そして4〜20mA DC信号で電動バルブを制御する電電ポジショナ、電空/空電変換器などを手当たり次第に製品化しました。この変換器路線が次第に軌道に乗り、売上げの規模が指数関数的に拡大して、エム・システム技研の経営基盤が固まってゆきました。

 その後独自の通信方式を用いた、一本のケーブルで多くの計測信号を効率的に伝送する多重伝送装置を創出して発売し、まずまずの評価を得ました。
 ところで、ご存じだと思いますが、日本の得意業である泥水シールドマシンがトンネル工事や地下鉄工事のほか、上下水道の大口径配管用の地中埋設工事などにも活躍するようになり、エム・システム技研の多重伝送装置は切羽に設置された同マシンを遠隔から制御するために用いられ、多くの現場に採用されました。この通信技術を応用したテレメータ装置も発売し、それらは現在も主力製品の一角を占めています。

 その後ModbusやPROFIBUSといった通信技術が急速に発達し、多くのオープンネットワークが実用化し、それぞれの通信プロトコルの優位性を主張するメーカーは世界標準を勝ち取るための協会を設立して、用途別にその存在を主張しています。
エム・システム技研では、これら通信技術の主要なものを全て取込み、多数の工業計測信号を同時に送受信する「リモートI/O」と総称されている機器群を発売し、この10年の間確実に新市場を獲得して成長しています。

 そしてついに、大手工業計器メーカーの一社から本格的な高機能PIDコントローラの開発要請を受け、DCSのシングルループ版ともいえる「シングルループコントローラ SCシリーズ」の完成にこぎつけました。これは前面パネルに美しいカラー液晶のタッチパネルを採用し、バーグラフ表示、デジタル数字表示、ショートトレンドグラフ表示のほか、各種設定画面、設定ボタンなどが表示できるようになった優れ物です。その発売からすでに4年が経過し、バッチ機能やブレンディング機能など、用途別の機能も追加して、出荷台数は累計1,412台を数えて問題なく稼働しています。

 高度にノウハウが詰ったDCSや現場設置のセンサなどにはエム・システム技研は手が出せませんが、一般的に「工業計器」に分類される機器ならば、ほぼその全てを短納期で供給できる企業にまで成長しました。現実問題として、エム・システム技研が提供させていただく工業計器のマーケットは、そのほとんどが現在稼働中の工業計器の更新需要になりつつあるものと思われます。

 既設の計装システムを完成させた計装メーカーは、新設プラント向けの市場がほとんど見込めなくなったことで、需要が少なくなった機種から順に廃形を進める傾向が見られます。エム・システム技研は、それら廃形が発表された機種の後継機種を、最新の部品と設計技術で新たに商品化して、お客様の生産現場における不都合な問題を解消することにも積極的に取り組んでゆこうと考えています。
 エム・システム技研では、「ひとたび世に出した製品はいつまでも作りつづける」を会社の方針に掲げて、お客様のお困りごとを解消して参りました。その結果今では、エム・システム技研の工業計器は、必要な時にいつでもすぐ手に入る「汎用工業計器」と呼んでいただけるまでになりました。
 汎用工業計器の需要は、ありがたいことに、その後FA(ファクトリーオートメーション)の業界、さらにはBA(ビルオートメーション)の業界へと徐々に拡がり、企業成長を支えてくれています。

シングルループコントローラ・リモートI/O・信号変換器

(2015年7月)


ページトップへ戻る