エムエスツデー 2014年10月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 今年の夏は異常な暑さが続き、大阪地域でも体温を超える気温を経験させられました。
 去る7月末頃のことですが、私はホームコースの茨木カンツリー倶楽部でいつものようにゴルフに興じていたところ、正午頃突然に激しい雨が降り出し、遠くの方で雷鳴が聞こえ始めました。間もなくサイレンが間を置いて繰り返し鳴り響き、雷注意報が出ていることを知らせていました。何とか前半のプレーを終えたのですが、ずぶ濡れになったので仕方なく後半のプレーを諦めて入浴し、着替えを済ませてやっとレストランに着いた時には、窓の外には日が差していました。夏の天気は意地悪なものです。
 自宅に帰ってみると、ゴルフ場から23kmしか離れていないのに、ものすごい激しい落雷があってとても怖かった、と知らされました。

 ところで、私がエム・システム技研を創業した1972年前後のことですが、落雷が度々計装機器を襲い、多くの被害を出していました。ちょうどその頃にはシリコントランジスタが普及し始め、工業計器は「全電子式」と称して増幅機能にはすべてトランジスタが用いられ、伝送信号としては直流電流の4〜20mAが国際的に統一信号として標準化され、使用され始めていました。私は創業直前まで、大手計装機器メーカーの一社である北辰電機の大阪支店で、主に上下水道設備の計装エンジニアリングの仕事をしていましたので、工業計器の実際の使用環境をよく承知していますが、広大な敷地に平面的に配置された最新式の浄水設備を、効率的に運転するための集中管理システムにおいては、この直流電流信号が、精度を損なうことなく計測信号の長距離伝送を可能にするものであったため、どの浄水場でもこの信号によるシステムが使われていました。しかしこの全電子式計装システムを構成する工業計器は、残念ながら数十km離れた箇所に落ちた雷でも、そのときに発生する強力な電磁波の誘導エネルギーによって、内部の半導体の一部が壊れてしまう弱点がありました。
 浄水場は多くの場合、雷の通り道だといわれる一級河川に面して建設されています。とくに山々に囲まれた地域にある浄水場では、年がら年中雷が発生し、浄水場の計装機器が度々壊れて浄水設備の運転に支障を来していました。北辰電機の大阪支店には、計装システム部門の隣のスペースにアフターサービス部門があり、そこでは担当地域に落雷があると、翌日には修理依頼品が殺到して多忙を極めるのが常態でした。
 私の認識では、浄水場に直接落雷したわけでもないのに、多くの工業計器がその機能を失うのは、離れた地点に生じた落雷でも、雷電流が発射する巨大な電磁波が、遠隔配置された工業計器間の信号伝送のために引きまわされている信号ケーブルに、プラスマイナス数千ボルトの誘導電圧を発生させるために起きることは、電気磁気学を修得した人ならば容易に理解できる現象だといえるのではないかと思います。
 当時のNHKの中央研究所に勤務していた、私の同級生に送ってもらった「放送電波の減衰特性に関するデータ」から見ても、さもありなんと思うものでした。当時は、通信機器を雷サージ(誘導電圧)から保護するための避雷器が、すでに複数社から販売されていましたが、電子式工業計器向けの専用設計品ではないために、浄水場分野では避雷効果がほとんどなく、関係者は困り果てていました。
 エム・システム技研を創業して間もなく、私はある計装工事をしている知人から、京都府の山間部にある工業用水の水道設備に使える避雷器はできないか、という相談を受けました。その時すでにエム・システム技研では、電子式工業計器専用の避雷器「エム・レスタ®」を完成させていましたので、「現場テストの絶好の機会が得られた」と喜んで、早速必要数を作り、取付配線要領も図面化して送付しました。その結果は、「効果覿面」で、エム・レスタ®を設置した箇所は見事に無傷でした。
 電子式工業計器の信号は4〜20mAの直流電流なので、プラスの端子にプラスのサージ電圧がかかっても100V程度までは壊れません。しかしマイナスのサージ電圧がかかると5Vくらいで壊れてしまうことが、壊れた工業計器の回路からみると充分考えられることなので、「極性のない従来の通信機用避雷器では避雷効果がなかったのだ」と考えられました。
 エム・システム技研は、エム・レスタ®の設計に当たって「マイナス側には制限電圧が1V以下になるような回路にした」ことが、非常に有効だということが証明された形になりました。  そこで私なりに自信をつけて全国の水道局に売り込みPRを始めることにしました。

電子機器専用避雷器エム・レスタ

 エム・レスタ®の効果をPRするに当たり、解りやすい機能説明用の機器セットを収容した「デモトランク」を用意しました。その「デモトランク」には、実際に1000V近辺の高電圧エネルギーをコンデンサに充電し、デモ用に用意した動作中の計測回路の信号線に、実際に放電する実験をしてお見せするものでした(現在でも利用しています)。そのデモトランクに組み込んだオイルコンデンサに、交流100V電源から直流高電圧を発生させて充電し、その充電された電気エネルギーの大きさを見ていただくために、金属皮膜抵抗器を用意して、それに印加するようにしました。するとその金属皮膜抵抗器はバーンと大きな音を立てて皮膜部分が吹き飛びます。もちろんお客様には「大きな音がします」と予告してから実験をするわけですから、「ヘェー」と驚かれる程度ですが、隣の部屋から「何があったんだァ」と飛び出して来られる人が出たりして、少し騒ぎになったこともあります。
 次にエム・レスタ®をプラグイン取付けして、実際に作動させた状態にした変換器の信号線路に、同じコンデンサを用いて放電実験をします。プチッと小さな音がするだけで正常な信号伝送が継続されます。この実験を極性を変えてもう一度放電させます。そして異常なしということで、実験PRは終わります。ほとんどの場合、見学された方々からその場でご注文をいただき、その効果が口から口へと伝わって、近隣の水道局からも次々と説明のご依頼があり、成果は上々でした。
 その翌年には「水道産業新聞」の1頁全面を買い取って、三段貫きの広告とエム・レスタ®の解説記事を用意しました。その上、水道産業新聞社の記者が、すでにエム・レスタ®を使用している水道局や、エム・レスタ®を納入してくださった販売店のキーマンの方々を直接訪問し、インタビュー記事にまとめ顔写真入りで掲載してくれました。その結果、一気に全国から次々と引合いをいただけるようになり、お陰様で「エム・レスタ®」と「エム・システム技研」は浄水場の救世主として有名になりました。
 知名度が上がると思わぬことが起こるものです。当時の工業計器メーカーの一社から、エム・レスタ®の説明会を開いて欲しいとの申し入れがありました。私は喜んで上京し、「デモトランク」を取り出して熱弁を振ったように記憶しています。これで「標準採用間違いなし」と思っていたところ、それから数か月して回路も体裁もそっくりな避雷器がその会社の関連会社から売り出されて、ライバルメーカーが誕生してしまいました。それからもう35年は経ったと思いますがエム・レスタ®の売れ行きは順調に推移しました。ライバルメーカーができたことで、市場は活気づくものであり、エム・レスタ®が本物であることの証ともなって新しい市場が出来上がってゆくものだと教えられました。今でも毎月6000〜8000台の出荷が続いています。多分累計出荷台数は100万台をはるかに突破していて、エム・システム技研の極めて重要な商品の柱の一つになっています。

 さらに、エム・レスタ®の発展プロセスには多くの自慢話があります。
 昔話になりますが、長野県の中信土地改良区事務所が、広大なりんご畑に自動的に散水したり、農薬を散布したりする農業用散水設備(関係者は「畑かん」と呼んでいました)を建設していました。その自動散水設備の運転制御用に、エム・システム技研の多重伝送装置とそれにエム・レスタ®をフル装備して納入することになりました。結果的に面白いことが起こりました。この設備のテリトリーと隣のテリトリーの中間辺りの鶏舎に落雷があり、鶏20羽ほどの被害がありました。しかし、500mほどしか離れていないエム・レスタ®を備えた散水設備には異常はなく、隣のテリトリーの他社が納入した設備には大きな被害が出たと聞きました。これは1977年頃の話で、社員数が私を含めて10人くらいの零細企業でまだほとんど知名度のないエム・システム技研を見込んで、ことの始めから終りまでお世話してくださった富士工機の小池さん(現在はアイ・ディ・ケィを経営しておられます)のお陰であり、本当に感謝しています。
 同じ頃、栃木県は黒磯市水道局の鳥野目浄水場に設置された某社の全電子式計装システムに、頻繁に雷被害が出ているという情報がもたらされ、現地を訪問しました。この辺りは雷銀座といわれていて、度々激しい落雷があって浄水場内にも落雷の跡がありました。試しにエム・レスタ®を20台設置したところ、間もなく来た雷で、エム・レスタ®設置箇所の工業計器は正常でしたが、その他の箇所には多くの被害が出ました。それから間もなく必要箇所には全てエム・レスタ®を設置し雷対策が完了したと喜んでいただきました。情報をくださった英和精工(当時)の原さん、そして対策を指揮してくださった鳥野目浄水場の大野場長(当時)と八洲電機の森技術部長(当時)には今も深く感謝しています。

 時代が変わって東日本大震災の後、自然エネルギーが注目を浴びて太陽光発電設備が各地に建設されていますが、ソーラー発電セルも半導体であることから、避雷器の大きな市場に成長してきています。
 「継続は力なり」を信じて、これからも汎用工業計器の専門メーカーの道を進んで参ります。
 どうぞ、エム・システム技研にご期待ください。

雷

(2014年10月)


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