エムエスツデー 2019年4月号

計装豆知識

リスクアセスメント(1)印刷用PDFはこちら

リスクアセスメントの手順について考えていきます。

昨年(2018年)は、自然災害が多かったイメージがあり、その年の特徴を象徴的に表す漢字も「災」でした。製品の設計時には、製品に関わる予想可能な「リスク」を見つけ出し、対策を講じておくことが重要です。
そこで、今回から2回に分けて、「リスクアセスメント」についてご説明します。

リスクアセスメントとは

企業活動や個人に関わる「リスク」をイメージすると、「取引」「金融」「自然災害」「労働災害」「製品の安全」「健康」など様々なキーワードが思い浮かびます。たとえば「金融」の世界で「リスク」というと、「将来のリターンに対する不確実性(変動割合)を意味し、「リスクアセスメント」は、コンプライアンス(法令遵守)面での内部監査的な意味合いになります。
それに対して「製品の設計」の世界での「リスク」とは、「危害の重大さ」と「危害の発生確率」の組合せをいいます。
製品の潜在的な「危険性または有害性など(ハザード)」を見つけ出し、その「危険性(危害の重大さ)」と「危害が発生する可能性の度合い(発生確率)」とを組合せて「リスク」を見積り、場合によれば、除去、低減する手法を「リスクアセスメント」と呼びます。

リスクとハザードの関係

「リスクアセスメント」の説明を行う前に、「リスクとハザードの関係」を図1に示します。
図1 リスクとハザードの関係 「ハザード」とは、「危害の潜在的な源」とされ、「危険源」「潜在危険」などと呼ばれることがあり、いかにも危険な感じがしますが、具体例を当てはめた図2を見ると、必ずしもそうではないことが分かります。
図2 リスクとハザードの関係(具体例) 「可燃性ガス」という「ハザード」は、潜在的に「爆発」という「危害」の源ですが、それ単体で危険であるわけではありません。「ガスの大量放出」と「換気しない」という事象に、さらに「給湯器の稼働」という事象が加わり、初めて危険なものとなります(「ハザード」は、一般的には悪者ではなく、本来は有用なものです)。
この事例の場合、「リスク」とは、「爆発」という危害の重大さと、それが発生する確率の組合せになります。「爆発」という危害の重大さを想像すると、たとえその発生確率(P3×P4)が小さくても、そのリスクは許容できないと思われます。

リスクアセスメントの手順

製品設計時の一般的なリスクアセスメントの手順を表1に示します。
以下、各手順について説明します。

表1 リスクアセスメントの手順
使用条件および合理的に予見可能な誤使用の明確化
危険源(ハザード)、危険状態の特定
危害のリスクの見積り
リスクの評価
リスクの低減活動

(⑤は、リスクアセスメントに含まないこともあります)

① 使用条件および合理的に予見可能な誤使用の明確化

「使用条件」として考慮すべき内容の多くは、開発設計仕様書にすでにまとめられていると考えられます。そのため、新たな資料を作成することも可能ですが、従来からある資料を、下記の観点から充実させるという進め方も考えられます。
「使用条件」は、「製品の条件」と「使用者の使い方」の組合せとして検討します。
前者の「製品の条件」は、その製品を使用する時点の条件だけではなく、製造後の運搬・設置から始まり、“意図する”使用時、さらには破棄時などの様々な時点で検討する必要があります。
後者の「使用者の使い方」は、使用者の年齢や身体的な特徴などによる使用方法の差異が考えられます。
これらの“意図する”条件を整理して定義しておくことは、次段階で誤使用について考える上で重要です。
「予見可能な誤使用」は、設計者が“意図していない”使用目的や使用条件、周囲環境での使用のことです。
たとえば、ヘアドライヤーを使用して、濡れた物を乾かしたりした経験はないでしょうか? これは、設計者が意図していない使用目的です。また、乳幼児や高齢者、障がい者などの行動を予見しなければなりません。
このような様々な想定を行う作業は、一人の人間だけで行うことには限界があるため、開発者だけでなく、多くの部門のメンバーが参加し、異なる視点で製品を見ることが大切です。もの創りにおいて、まずは試作を行い、それから問題点を考えることがありますが、試作後に大きな問題が見つかった場合は手戻りが大きく、さらには見落として市場に出してしまう可能性があることを考えると、開発の初期で検討し、対策をしておくことは重要です。

② 危険源(ハザード)、危険状態の特定

①でまとめた「使用条件および誤使用」をもとに、危険源(ハザード)、危険状態の特定を行います。この作業も、①と同様に製品の各場面について行う必要があり、様々な部門が参画することが望まれます。FMEA(*1)やFTA(*2)といった手法が広く用いられています。過去に発生した事故事例を利用することも重要です。

次回は引続き、リスクアセスメントの手順と、リスクの低減活動(スリーステップメソッド)について説明します。

<参考文献>
消費生活用製品向けリスクアセスメントのハンドブック 【第一版】 経済産業省
リスクアセスメント·ハンドブック 【実務編】 経済産業省
JIS T 14971 医療機器 ― リスクマネジメントの医療機器への適用

(*1)FMEA(Failure Mode and Effects Analysis):故障モードと影響の解析
(*2)FTA(Fault Tree Analysis):故障や事故の分析法

【(株)エム・システム技研 設計部】


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