エムエスツデー 2016年10月号

計装豆知識

WirelessHARTとISA100(その1)印刷用PDFはこちら

無線ネットワーク WirelessHARTとISA100を比較しながら無線ネットワークの技術をご紹介します。

工場内のフィールド機器向け無線ネットワークとしては、現在WirelessHART*1とISA100.11a*2が市場を分け合っています。今回この2つの無線ネットワークを比較しながら工場内フィールド機器向け無線ネットワークの最新技術を紹介したいと思います。
表1にWirelessHARTとISA100.11a(以降ISA100と表記)の比較を示します。

表1 WirelessHARTとISA100の比較表
Layerなど WirelessHART ISA100
規 格 IEC 62591:2010:2016 ISA100.11a:2011
IEC 62734:2014
物理層 IEEE802.15.4-2006 2.4GHz DSS IEEE802.15.4-2006 2.4GHz DSS
データリンク層 TDMA
チャネル・ホッピング(slot)
Meshトポロジー
TDMAおよびCSMA/CA
チャネル・ホッピング(slot/slow)
Mesh/Starトポロジー
ネットワーク層 Graph/Sourceルーティング
Network Manager
IETF IPv6/6LoWPAN
Graph/Sourceルーティング
Network Manager
トランスポート層 ACK/unACK IETF UDP
アプリケーション層 HART 7 ISA100.11a Native & Legacy
マルチプロトコル
アドレス HART Address 16bits/64bits/IPv6(128bits)
通信方式 Command & Response
Burst mode
Publishing/subscribe
Alert
Client/Server
Bulk transfer
セキュリティ 128bit Key Encryption
Link/Transport
Security Manager
128bit Key Encryption
Link/Transport
Security Manager

国際標準規格

IEC(International Electrotechnical Commission)は、電気工学、電子工学、および関連した技術を扱う国際的な標準化団体です。
WirelessHARTは、IEC 62591:2010:2016として、またISA100はIEC 62734:2014として、国際標準規格になっています。

物理層

WirelessHART、ISA100共にIEEE802.15.4-2006規格で定める2.4GHzのISM帯を使用します。ISM帯とはIndustry-Science-Medical bandのことで、産業・科学・医学用の機器に用いられ、免許不要で利用できるよう開放されている周波数帯です。日本では、出力が10mW以下となっています。2.4GHz帯を使う場合、83.5MHz幅のバンド内にチャネル幅5MHzの16個のチャネルがあり、DSSS(Direct Sequence Spread Spectrum)変調方式によって250kbpsのデータ伝送速度を実現する仕様です。

データリンク層

データリンク層ではIEEE802.15.4eで定めるTDMAを採用しています。TDMA(Time Division Multiple Access)とは、同一の通信路を複数の通信主体で混信することなく共用するための多重アクセス技術の一つで、時間的に伝送路を分割して複数のデバイスが同時に通信する方式です。主に電波を用いた無線通信について用いられる方式で、伝送路の利用権をミリ秒単位の極めて短い時間ごとに均等に分割して複数のデバイスに順番に割り当てます。この区切られた単位時間のことをタイムスロット(time slot)といいます。これにより複数のデバイスが同時に同一の周波数帯を用いて通信することができます。
WirelessHARTの場合、time slotは10ms固定ですが、ISA100の場合、設定変更可能になっています。さらにISA100では、大量のデータ伝送が効率的に行えるようにするためCSMA/CAモードもサポートしています。CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)も、無線LANで採用されている媒体アクセス制御方式で、同一のチャネルに複数のユーザーがアクセスする際の競合を回避する方式の一つです。

高接続信頼性のしくみ

産業用に無線技術を利用する場合、接続不能があってはなりません。接続の信頼性を高める技術として、メッシュ・トポロジーとチャネル・ホッピングの技術を採用しています。

メッシュ・トポロジー

複数の通信経路をサポートしないと、通信経路に電波障害などが起こり、その経路が遮断された場合、対象のデバイスからのデータを上位に伝えられなくなります。メッシュ・トポロジー・ネットワークによれば個々のデバイスは2個以上の経路をもつことが可能になります。したがって一つの経路で電波障害によるエラーが起きても、他の経路を経由してデータを確実に上位に届けられるようになります。

チャネル・ホッピング

2.4GHz帯の16チャネルのうち、1つのチャネルがつながらなかった場合に、他の15チャネルの中から安定したチャネルを選択し、使用する機能をチャネル・ホッピング(周波数冗長性)といいます。チャネル・ホッピング通信方式を採用するネットワークでは、特定の周波数チャネルで電波干渉が発生しても、他の周波数チャネルによる再送でエラーへの対応が可能であるため、干渉電波への耐障害性を高くすることができます。ISA100では、time slot単位でチャネル・ホッピングするslotホッピングに加えて、遅い周期でチャネル・ホッピングするslowホッピングをサポートしています。slotホッピングは、高信頼性・定時制が必要な定周期データの通信に使われます。一方slowホッピングは、定時性は必要ではないが大量のデータを高効率で伝送する用途(たとえば、パラメータなどのアップロード/ダウンロードやファームウェアの更新など)で用います。

ネットワーク層

ISA100は、IPv6/6LoWPANをサポートしています。6LoWPANとは、IPv6 over Low power Wireless Personal Area Networks の略語で、IPv6(Internet Protocol Version 6)をIEEE802.15.4 無線上で実現させるための規格です。

アプリケーション層

WirelessHARTは通信プロトコルとして、Wired HARTのプロトコルをそのまま拡張してHART7として定義しています。したがって、アセット・マネージメントなど上位のソフトウェアは、従来のHARTシステムを容易に拡張して使用することができます。
一方、ISA100はISA100.11aのNative & Legacyプロトコル(トンネリング:従来からある既存の通信プロトコルをそのまま通過させるプロトコル)をベースにしています。これは既存の各種プロトコル(PROFIBUS、Foundation Fieldbus、Modbus、HARTなど)をサポート可能にするための技術です。これにより既存のホストシステムとの柔軟な接続を実現できます。Publish & SubscribeプロトコルやPeer to Peer通信などのサポートにより、Foundation Fieldbusでのローカル制御機能も実現できます。

次号ではネットワーク構成を比較してご紹介します。

<参考文献>
*1 http://en.hartcomm.org/
   ・http://jp.hartcomm.org/hcp/tech/wihart/wireless_how_it_works.html
   ・A Comparision of WirelessHART and ISA100.11a

*2 http://www.isa100wci.org
   ・The Technology Behind the ISA100.11a Standard – An Exploration

【(株)エム・システム技研 開発部】


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