エムエスツデー 2014年10月号

計装豆知識

HART7(その1)印刷用PDFはこちら

HART7の主な機能をHART通信プロトコルに照準を合わせて説明します。

HART通信

HART(Highway Addressable Remote Transducer)通信は、アナログ出力にデジタル信号を重畳して伝送する通信方式で、4〜20mA DC出力伝送器であるフィールド機器の機能向上を目的として、1986年にローズマウント社によって開発されました。

1993年にHART協会(HART Communication Foundation)が設立され、HART技術・仕様の公開、機能向上、教育、試験、認証などの活動を行っています。

エム・システム技研のHART7通信対応製品例 2線式ユニバ−サル温度変換器 (形式:B3HU2)ARC Advisory Groupの調査によりますと、2012年の時点で、全世界でのフィールド機器の設置台数は7500万台で、そのうち約50%の3710万台がHART通信対応機器とのことです。さらにフィールド機器の年間増加台数は約250万台で、そのうち95%がHART通信対応機器とのことです。したがってフィールド機器については、今やHART通信は必須の機能になっています。

HART通信とその仕組みについては、『エムエスツデー』誌1998年11月号および12月号の「計装豆知識」で解説していますのでご参照ください。

今回はHART通信プロトコルに照準を合わせて解説します。

HART通信方式

マスタ/スレーブ方式

HART通信方式は、マスタ(DCS、PLC、Handheld Communicator)がスレーブ・デバイス(フィールド機器その他)に対して要求メッセージを送信し、スレーブ・デバイスが応答メッセージを返信するという、非常にシンプルな通信方式です。HART通信では、PrimaryとSecondaryの2つのマスタをサポートします。たとえば、制御システム(PLC)をPrimaryマスタ、Handheld CommunicatorをSecondaryマスタにします。

Burst Message(バースト・メッセージ)

マスタからの要求メッセージがなくても、指定された条件(周期、状態変化)が成立したときに、スレーブは自動的に指定された応答メッセージを発信します。このメッセージをBurst Messageといいます。Burst Messageの成立条件と応答メッセージは、マスタが設定します。

HART通信コマンド

アプリケーション層のHART通信には、3種類のコマンドがあります。ユニバーサル・コマンド、コモンプラクティス・コマンド、機器固有のコマンドです。これらそれぞれの適用範囲と機能を表1に示します。

HART通信プロトコルの仕様は、Revision 5がベースになっていましたが、大幅に機能アップしたRevision 6が2001年に開発され、発表されました。HART通信対応機器は順調に市場に受け入れられていましたが、プラントに設置されているHART機器のうち実に85%が、HART通信による有用な機能(診断など)を利用してはいないことが明らかになりました。そのため、ワイヤレス技術を利用して上記の85%のHART機器の未利用HART情報を上位側に容易に取り込むことができるようにするため、「Wireless HART通信プロトコル」が2007年に開発され、発表されました。これがすなわちRevision 7(HART7)です。

HART7通信プロトコル仕様の最大の特長は、以前のバージョンとの下位互換性が保証されていることにあります。

表1 HART通信コマンドの適用範囲と機能
コマンド種類 適用範囲 機 能
ユニバーサル
(Universal)
全てのデバイスに必須の
コマンド
PV値、4〜20mA DC出力値、
タグ、診断情報
コモン
プラクティス
(Common Practice)
特定の機能を実現するための 共通のコマンド群。
デバイスで選択可能。
デバイスの種類により必須となる機能がある

レンジ、キャリブレーション、
多チャネルアナログ出力、
バースト・メッセージ、
ブロックデータ伝送、
I/O System & Sub-Device、Wirelessなど
機器固有
(Device Specific)
デバイス固有の機能を実現するコマンド。
仕様はデバイス毎に定める
機器固有情報、特性、
コンフィギュレーション

HART通信プロトコルの主な機能

表2に各Revisionにおける機能比較を示します。

表2 HART通信プロトコルの各Revisionにおける機能比較
主なHART通信プロトコル機能 Revision
5 6 7
Short Tag(PACKED ASCII、8文字長)
Dynamic Variables(PV、SV、TV、QV)with Status
4〜20mA DC Analog Output
Diagnosis Information
Long Tag(32文字)  
Configuration Change Counter  
Extended Device Status  
Device Variables with Status  
Multiple Analog Outputs  
Burst Message  
I/O Systems and Sub-Device  
Block Data Transfer(ブロックデータ転送)  
Condensed Status(NAMUR NE 107)    
Event Notification    
Data Trend    
Synchronized Device Actions    
Read Aggregated Command    
Catch Device Variable    
Wireless    

 (HART協会の資料をベースにエム・システム技研独自に作成)

次号で引続きHART7の主な機能を説明します。

* ARC Advisory Group:産業界および社会基盤に対する調査/提言を行っているリーダー的会社。
  1986年設立。
  http://www.arcweb.com/

【(株)エム・システム技研 開発部】


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